呪縛を解き放った勝利(2/16 東京V戦)
先週日曜(2/16)、エスパルスにとってのJリーグ開幕戦が国立競技場で行われました。まだ2月なので寒いだろうと思っていましたが、この日は幸いにも暖かかったので、それほど寒さを気にせず3か月ぶりのエスパの試合の生観戦を楽しむ事が出来ました。東京Vのフードヴィレッジで買って食べたスペアリブ丼は美味しかったし、試合前のエスパ・東京Vサポによるコレオは凄かったし、あとは試合に勝てればOKという感じでした。
一昨季の昇格プレーオフでウチを振り切ってJ1復帰を決めた(ウチにとって先を越された)東京Vが相手、場所も同じ国立、そしてエスパは国立で長い事勝っていないという様々な呪縛を振り払うには絶好の機会だったわけですが、1-0で勝利となりました。これで2002年のスーパーカップの鹿島戦以来、リーグ戦では2001年の同じく鹿島戦以来久々の国立での勝利をあげる事が出来ましたし、一昨季の昇格プレーオフの際の雪辱を果たす事が出来ました。ただ一番良かったのは、その試合で東京VにPKを与えるプレーをしてしまった高橋がその時の呪縛から解き放たれた事。帰静するためチームバスへ乗り込む前に撮られた動画で「これからはサッカーを楽しむ事が出来ます。」と高橋が安堵の表情を浮かべながら言っていたのを見て、「勝って良かった」と心から思いました。
<明治安田J1リーグ 於 国立競技場>
清水エスパルス 1ー0 東京ヴェルディ
1.エスパルスのスタメン
SUB:猪越、高橋、吉田、北爪、嶋本、松崎、アフメド アフメドフ、ドウグラス タンキ
基本は2週間前のTMの磐田戦での1本目のスタメンと同じですが、ボランチに矢島でなくマテウス ブエノ、1トにプにタンキでなく北川が入りました。リザーブに関しては今季から9人入れられるようになったのを活かし、終盤点をとらないといけない場合でも守り切りたい場面にも対応できるメンバーを揃えてきましたが、中盤に矢島や小塚でなく嶋本が入ったのは意外でした。尤も後で「なるほど」と思いましたけど。
2.東京Vの戦い方
昨季16年ぶりにJ1の舞台に立った東京Vは、序盤こそ苦しみましたが、次第にJ1のレベルや強度にアジャストしてきて、後半戦は勝ち点を積み重ね、最終的にリーグ戦を6位で終える事が出来ました。その原動力は選手全員の運動量。全員が惜しみなく走り回ってボールホルダーに厳しいプレッシャーをかけ、ボールを奪ったら素早く前にボールを運んで相手ゴールに襲い掛かり、それで得点出来なくてもセットプレーで仕留めるというサッカーで昨季結果を残してきました。実際、昨季のスタッツを見るとボール保持率、シュート数、ペナ侵入回数といった攻撃系の数値は平均以下ですがタックルやクリアといった守備系の数値はリーグで上位。何より被シュート数や被チャンス構築率がリーグで上位で、そうした数値から見えてくるのはボールは多少持たれても粘り強く守って簡単にシュートさせず、めぐってきたチャンスを確実に活かすサッカーをする事で勝ち点を積み上げてきた事が窺えると思います。シュート成功率はリーグで7位ですしね。あと全得点に占めるセットプレーからの得点の割合が30%と高めなのも特徴を表していると思います。
そうしたスタッツから見た東京Vの特徴から考えると、僕はもっと前からガツガツくると思ってました。1トップ2シャドウをこちらのCB2人にぶつけ、こちらがサイドに逃げたところでWBが前に出てボールを奪うようなアグレッシブな形をしてくるかと。ただそうはしてきませんでした。基本的にはミドルブロックを組んでけん制をかけるくらいな感じでしたし、サイドにボールが入った時もWBは上がらずむしろ後ろ5枚を維持する方を選択してました。このへんは開幕戦だから相手より先に失点しない事を優先したのかもしれません。ただ真ん中はしっかり締めてきましたし、乾にボールが入った時はガツガツ来てましたけどね。
3.互いにじっくりにらみ合った前半
キックオフ直後は互いに長いボールを前に出すプレーが続きましたが、その後はエスパがペースを掴み、乾、宇野を中心としたパスワークで相手陣に迫りました。それに対してなかなか前でボールを持てなかった東京Vでしたが、単純に1トップの木村に当てるボールではなく逆サイドのWBへの斜めのサイドチェンジのパスも織り交ぜるようになり、それにより前でボールを持てるようになって、東京Vがペースを奪い返しました。エスパは4-4のブロックの横幅を狭くとっていたので、その分どうしても逆サイドはフリーになってしまいます。東京Vはそうしてサイドへ起点を作ると必ず誰かが内側へアンダーラップをかけてきます。そこはちゃんとボランチが対応するようにしていて、そこからゴール近くまで入られたのは木村が強引に突破してきた時くらいでしたが、どうしてもCKは取られてしまって、そこから2~3度危ないシーンを作られました。中でも31分に綱島に合わせられた場面が一番危なかったのですが、沖が右手を伸ばしてボールを抑え、事なきを得ました。そうやって何度かあったピンチを防ぐと今度はエスパが東京Vの最終ラインと中盤の間でパスを受けられるようになり、そこでのパス交換から立て続けに惜しいシーンを作ります。そうやってお互いににらみ合ってペースの奪い合いが続くものの殆どシュートまでいけない展開が続いた40分、突然試合が動きます。
東京Vの前へのボールをセンターライン付近で回収し、乾がボールを前に運びますがスペースがないためボールが最終ラインの蓮川へ戻されます。これに合わせて東京Vが全体を上げたのを見て高木が逆にウラへ走り出し、それを見た蓮川が高木の前に絶妙なロングフィード。高木がダイレで中へ折り返すとゴール前に走りこんだどフリーの北川がヘッドでボールを押し込み、エスパが先制点を奪いました。まずボールが最終ラインに戻されたのを見て中原がボールを受けに下がったのですが、それが対面の松橋をつり出す事に繋がりました。それによって出来たスペースを見逃さずに動き出した高木の判断が見事でしたし、その高木を見逃さなかった蓮川も見事。北川はごっつぁんゴールではあるのですが、高木からボールが来ると信じてゴール前に走りこんだからこそのご褒美なんですよね。4人の動きが呼応しての見事なゴールでした。エスパはその直後も山原がカピシャーバとの連携からポケット深くまで侵入してクロスを入れたのですが中と合わず、その後は東京Vに押し込まれましたが上手く凌いで、1点リードで前半を折り返しました。
4.配置変更等で東京Vの攻撃の芽を潰した後半
後半はキックオフからボールを繋いで相手陣へ攻め込んだエスパがペースを握りました。ボール非保持時も相手の3バックには北川、中原、カピシャーバが、WBには対面のSBが見るようにして簡単には蹴らせないようにし、無理して蹴ってきても住吉、蓮川がしっかりと対応し、東京Vに攻めの糸口を作らせません。51分には相手陣で最終ラインから森田へのパスを乾がつついてボールを奪い、カピシャーバが決定的なシュートを撃つ場面を作ります。こうした劣勢を受けて城福監督は56分に3枚替えを敢行。染野、平川、新井を入れて、システムも木村と染野の2トップに変更しました。この交代の直後はこちらのCBの住吉、蓮川と数的同数にする事で前プレをかけやすくなり、ボール保持時は2人で連携しながら攻めかかってくるので少しだけ流れが東京Vにいきかけましたが、一方で後ろの枚数はそのままな上にボランチを1枚減らしたのでエスパとしてはむしろ前プレがかけやすくなったのですぐにエスパが優勢となり、62分には宇野の中盤での見事なターンから乾が惜しいシュートを放つ場面も作りました。
ただ秋葉監督としてはこのまま東京Vの2トップに何の対策もとらないのはリスクがあると考えたのでしょう。67分に北川に代えてアフメドフを入れたタイミングでシステムを以下の形に変更しました。
3バックにして山原を右WBに回し、高木を3バックの左へ。蓮川と住吉のポジションも入れ替えました。カピシャーバは1列下がって左WBに入りましたが、ボール保持時は一列上がってサイドハーフの役割をこなし、前でボールロストした時はそのまま前プレの役割をこなすので、後ろのリスクは下げつつ前への圧力は減らない形となりました。これに対して城福監督は76分に翁長を入れ、更に79分に木村に代えて白井を入れてシステムを4バックに変更してきました。これでサイドは東京Vが数的有利となり、前から嵌められなくなったエスパは劣勢となりました。これを見た秋葉監督は守備を強化すべく高橋を投入。これにより選手の配置は下図のようになりました。
これで真ん中3人を背の高い選手にして東京Vに容易にクロスを入れさせない形にすると、更に90+3分には吉田、宮本、嶋本の3人を入れて選手配置を下図のように変更。
これでフレッシュな選手を3人入れるともに右サイドで厄介な突破を見せていた新井を抑えにかかり、その新井に突破されかけて直接FKを与えてしまったものの、それを撥ね返してからは落ち着いて時間を管理し、1-0でエスパルスが開幕戦で勝利をおさめました。
5.勝因と課題
以上、試合内容を書いていきましたが、改めて勝因は何かと問われると、ざっくり言ってしまうと「この試合までに準備してきた事を表現できた事」と「先制できた事」の2点に尽きるんじゃないかなと思います。
まず前者については、この東京V戦だけの準備に限らず、シーズン開幕に向けてチーム始動時から準備してきた事になります。例えばボール保持時に最終ラインからどのようにボールを前進させていくかとか押し込んでからどう崩すかとか、非保持時にブロックを作る時にどれくらいの距離感をとるかとか、相手にポケットに入られそうになったら誰がどう塞ぐのかとか、そういったベースとなる攻め方、守り方についてチーム始動時から選手達に落とし込んで共有してきたと思います。また67分頃から3バックに移行しましたが、その時の選手の配置についても同様だと思います。このシステム切り替えは一昨季からやっていた事ですが、今オフに原テルが退団した事でどういう配置にするかを考え直す必要があったはずです。そこで代役候補に元々CBの高木を選んで、その上で3バックのどこでプレーさせるのが良いかを紅白戦などで試してある程度目途をつけていたと思います。昨季西澤がやっていたボール保持時サイドハーフ、非保持時WBというポジションをカピシャーバにさせたのも事前に確認していたでしょう。後者の「先制できた事」についても、ここまで準備してきた事の一つでしょう。3バックのチーム相手には逆サイドのWBのウラが狙いどころというのが選手間で共有されていたみたいですからね。
ただどんなに万全な準備をしたからといってそれが実際の試合で実践できるとは限りません。ましてや戦いの舞台はJ1で、レベルも強度も上がってますから。だからそんなJ1で昨季6位となった東京V相手に準備してきた事をきちんと表現できたのは見事だったと思います。東京Vの選手達にきつく当たられても上手くかわしたり時には当たり返したりしながら準備してきた事を実践する事で前半はがっぷり四つに組み合い、後半は常に相手より先手をとり続けて勝ち切る事が出来たのですから、これは自信に思っていいと思います。
ただ相手を押し込んでからの崩しについては準備してきた事を実践しきれなかった感じで、課題を挙げるならこの点でしょう。35分過ぎくらいまでシュートが撃てませんでしたし、なかなか崩し切るところまではいきませんでした。ただ、相手の東京Vが最終ラインに5枚かけていた分難易度は上がりますし、まだシーズンが始まったばかりで選手間の連携が十分出来ていないのもあると思います。どう崩すかのイメージは共有出来ているようだったので、後は選手間の連携に関する練度を試合をこなしたり練習したりする事で解決できると思いますし、少なくとも悲観する必要はないと考えます。
6.印象に残った選手
サブタイトルを上記にしましたが、印象に残った選手ばかりです(汗。ただその中でも4つのポジションをこなした高木は一番印象的でした。公式戦で初めてプレーしたはずの右SBも問題なくこなした上にアシストまでするのですから、彼の今後が楽しみです。またCBの蓮川、住吉、ボランチの宇野、マテウス ブエノの4人が真ん中で効いてましたね。特にマテウス ブエノは初めて生でプレーを観ましたが、身長がある分最終ラインの前でフィルターになってくれるし技術も高いので「いい選手だなぁ」と思いました。コンビを組む宇野の運動量も凄かったし、乾のようなターンも見せるようになって「伸びてきてるなぁ」と感じました。あとはカピシャーバの攻守両面での献身的なプレーぶりと嶋本の18歳とは思えない落ち着きっぷりが印象に残りました。
7.まとめ
これで一昨季の昇格プレーオフで勝てなかった悔しさを多少なりとも晴らす事が出来ましたし、良い雰囲気でリーグ戦をスタートさせる事が出来ました。ただあくまで1試合目で勝っただけですし、次のホーム開幕戦でも勝たないと意味がない事は2021年シーズンを振り返れば明らかです。次の相手は開幕戦で横浜FM相手にアウェーながら優勢に試合を進めた新潟。「アイスタでなら勝てる」という安易な気持ちでいたら足元をすくわれます。前節と同様に万全の準備をして臨んで欲しいです。
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