またも我慢強さが光った試合(11/10 熊本戦)
それでは遅くなりましたが、熊本戦自体のレビュー記事を書きます。チケットは試合の数日前に売り切れ。当日曇りがちで雨も心配されましたが、大勢の観客が詰めかけました。そのせいであちこちで並んでいて、シャーレを展示しているテニスコートは物凄い行列だったし、グッズショップも同様で入るのに結構かかり、スタグルも買うまで随分かかって大変でした。とはいえこれはそれだけエスパルスの話題で盛り上がったからで、実際1試合あたり平均観客動員数は昨季を上回ったとの事。J2で2年目にも関わらずこれだけの人が集まって、チームも良い形で終わる事が出来たのは本当に良かったと思います。
<明治安田J2リーグ 於 IAIスタジアム日本平>
清水エスパルス 1ー0 ロアッソ熊本
1.エスパルスのスタメン
SUB:沖、高木、西澤、川谷、中村、加藤、ドウグラス タンキ
既に優勝もJ1復帰も決まっているという事で、どのようなスタメンにするかが注目されました。あくまで結果にこだわってベストメンバーでいくか、出場機会の少ない若手選手を抜擢するかの2つの考えがあると思いますが、秋葉監督は「欲張って」両方をとりにいった布陣を選択しました。GKに公式戦初出場の猪越、ボランチに今季4年目の成岡、1トップにはAWAYの山形戦以来のスタメンとなる郡司と、センターラインに若手を起用。その周りをスタメン組で固めて結果も取りにいきました。サブもリーグ戦で初めて川谷と加藤を入れてきました。特に加藤は二度の大怪我でエスパでの公式戦出場機会はなく、出場出来れば大きな拍手で迎えられるだろうと思われました。
2.熊本の戦い方
熊本は昨季の主力だった平川、島村を引き抜かれましたが、開幕戦でエスパに敗れたもののその後の調子は悪くありませんでした。しかし第9節から7試合勝ち無しとなり順位も18位へ。その後も17位と18位の間を行ったり来たりする時期が続きました。しかし第28節のAWAYのいわき戦で殴り合いの末4-3で勝ったあたりから調子を取り戻し、第31節の鹿児島戦から4連勝してJ2残留を確定。その後勝ちきれない試合が続いたものの第36節ではAWAYで山形に0-1で敗れたものの山形の倍となる16本のシュートを放ち、第37節のHOMEでの仙台戦では3-1で見事な逆転勝ちと良いチーム状態を保ったままアイスタ日本平へ乗り込んで来ました。
システムは開幕戦では3-4-1-2でしたが、ここ数試合は昨季と同じ3-3-1-3。で、3トップだし開幕戦でも2トップを両サイドに張らせる形で来たので、この試合でも同じようにウィングを活かした攻めをしてくると思ってました。しかし実際には逆で、ボール保持時、非保持時ともにブロックの横幅をコンパクトにして選手間の距離を狭くして、その上でショートパスをテンポ良く回してボールを前に運んでエスパ陣内に迫り、その攻撃にエスパは大いに苦しめられました。
3.熊本のやりたい放題だった前半
これに対してエスパルスの基本システムは4-2-3-1。熊本がここ2試合戦った栃木、いわきと同じく3バックだったのでこの試合も栃木戦、いわき戦と同じく3-4-2-1にしてくると思っていたので、これも意外でした。ただ水戸戦から山形戦の間の2週間で守備の微調整を行っていて、その狙いが対3バック対策と聞いていたので、それを改めて試そうとしたのだろうと思います。
が、この試みは失敗しました。
前述した守備の微調整はブロックのタテ幅だけでなく横幅を狭くする事でした。それによって相手がブロックの中でパスを回すスペースを狭くしてボールを引っかけやすくするのが狙いだったと思います。しかし相手の熊本は前述した通り横幅を狭くしてその中でパスを回して相手ブロックを崩しにかかるチーム。多少スペースが狭くてもパスを回すのはお手のもの。2週間程度の微調整による対応でかなうはずもなく、更にシステムがマッチしてないために誰がどう相手選手を捕まえるのかが難しく、そこへ出場経験の少ない選手がフィールドに2人いたのも重なって、エスパは熊本のパス回しを抑えられず自陣に押し込まれ続ける事となりました。
何とかボールを奪ってからの攻撃も思うようにいきませんでした。熊本は攻撃時の横幅の狭い状態のままでこちらのボールホルダーにチェックをかけてきますが、選手間の距離が狭いからボールホルダーがちょっと手間取るとすぐ複数人が囲んで来ます。そのためボールを奪ってもすぐボールホルダーが囲まれてボールを奪われ、二次攻撃、三次攻撃につなげられてしまいました。何とか前線へのロングボールで逃げようとしても、この日は1トップが郡司だったのでキープしようとしても厳しく寄せられて奪われてしまうのが殆どで前線で起点が作れなかったのも災いしました。まあボールを奪う位置が低いからどうしても郡司へのサポートが遅くなってしまっていたので、郡司1人のせいとは言えないのですが、相手に押される展開を打開するには物足りなかったですね。そんな状態でエスパは熊本に攻められ続け、24分から39分にかけて8本のシュートを撃たれました。特に30分の大本のシュートは決定的でしたが、ゴールラインの手前で蓮川がクリアして事なきを得て、他の時間帯も我慢強く対応してどうにか無失点で前半を折り返しました。
4.開始からの選手交代で状況を打開した後半
前半の戦いが大いに不満だったのでしょう。秋葉監督は後半開始から選手を二人代えてきました。まず1トップに郡司に代えてタンキを投入し、前線に起点を作ろうとしました。そして矢島に代えて西澤を右サイドに投入。これに伴ってブラガが左サイドへ移りました。同時にシステムを栃木戦、いわき戦と同じ3-4-2-1にしてきました。狙いはシステムを熊本とほぼ同じ形にして誰が誰を捕まえるかをはっきりさせ、後ろを5人にした事でより前にチャレンジしやすくするというものだと思います。そして攻撃時はいわき戦と同じで後ろを4枚にして原テルを右SBの位置に移して西澤を前に上げる事で熊本のシステムとミスマッチにする事で、逆に相手が捕まえにくい形にしたのだと思います。
この交代は効果がありました。後半開始早々に後ろからのロングボールをタンキがキープしようとしてファウルをとられたように前線で起点となり得る所が出来、またボール非保持時に誰が誰を捕まえるのかが明確になった事で全体のブロックが前に上げられるようになり、ボールホルダーへのチェックも早くなって、前半よりもボールを奪う場所が明らかに高くなりました。これによって前半は40%程度だったエスパのボール支配率が後半開始からの15分間は51.5%に上昇し、相手陣へ押し込む時間帯も増えました。
そしてその流れの中で先制点が生まれました。この数分前に山原⇒成岡⇒蓮川とつないで、蓮川がドリブルでバイタルエリアまでボールを運び、最終的にブラガのシュートに繋がるのですがブロックされた(タンキに当たった?)のですが、再びエスパがボールを回収し、今度は右サイドのスペースに宮本が飛び出してキープ。それを起点にしての繋ぎからの乾のクロスは相手選手に当たったものの、こぼれ球を原テルが拾ってバイタルエリアにドリブルで侵入し、左足でシュート。ボールはファーサイドに突き刺さり、エスパが先制に成功しました。原テルのDFとは思えないシュート力とスペースに入り込むセンスの高さは見事の一語。ただそこに至るまでの左右からの崩しによって熊本の足が止まってきたのもあるでしょうし、前半あれだけ流れが悪かった中で一旦流れを握ったらそれを活かしていく今季のエスパの勝負強さが現れたシーンだったと思います。
この後、エスパは66分に乾がポスト直撃のシュートを放つなど引き続き攻勢をかけますが、熊本も負けておらず選手交代によって状況を変えようとします。中でもトップ下に入った唐山のいやらしい動きと右ウィングに入った大崎のスピード溢れる突破はエスパ守備陣を苦しめ、次第にペースは熊本に引き戻され、68分の三島、81分の石川など危ないシュートを撃たれたりしました。しかし猪越を中心に辛抱強く対応したエスパルスがゴールを許さず、1-0で勝利しました。
5.課題と、それでも勝てた要因
冷静に振り返ると「勝ったから良いようなものの」と考えざるを得ない試合でしたね。特に前半は熊本にいいようにやらせ過ぎました。そうなってしまった要因については前述した通りですが、ざくっと書くとわずかな中断期間を使っての付け焼き刃の対応では熊本のパス回しとトランジションの速さには太刀打ちできなかった、という事だと思います。
で、そもそもエスパの守備のやり方って少なくとも秋葉監督になってからはゾーンとマンツーマンの併用でやってますけど、どちらかというとマンツーマンの意識の方が高いんですよね。だから後半みたいにミラーゲームにして人を捕まえやすくすると守備が機能するんですけど、システムがミスマッチだと特に熊本みたいにポジションをどんどん入れ替えてくるチームには苦戦しがちになるのだと思います。以前から4バックで守っている時に3バックで来るチームには苦戦しがちなのはそういう事じゃないかと。秋葉監督もその事を気にされて微修正を施しているのだと思いますが、今季は解決策が見いだせませんでしたので、これは来季に向けての宿題ですね。まあ来季も基本システムを4バックにするかはわかりませんけど。
という事で全体としては課題の方が多い試合でしたけど、それでも粘り強く守って失点を許さず、選手交代とシステム変更によって流れを変えて逆に先制点を奪って勝ち切ったのは良かったと思います。特に相手にペースを握られても簡単には失点しないというのは秋葉監督がこだわっている「アタッキングサードでどう攻めるか」「ディフェンディングサードでどう守るか」のうちの後者の部分がきちんと機能している事の表れですからね。自分達にとって危険なゾーンがどこで、そこに入らせないためにどうするか等についてシーズン開始から落とし込んでいった事で押し込まれても簡単には失点しないようになったと思いますし、それが終盤3試合連続で我慢強く戦って勝ち点3をもぎ取れた要因なのではないかと考えます。まあ失点数は昨季より増えてますし、これがJ1のチームを相手にしたらどうなるかはわかりませんが、チームとして自信になる部分を得た事はムダにはならないと思います。
6.チャンスを得た選手達についての雑感
ここからは個々の選手の話に移りますが、せっかくなので最終戦でチャンスを得た選手達について触れたいと思います。まず猪越については試合開始早々に相手のクロスを取ろうとしてファンブルしてしまったのを見ても相当緊張していたと思いますし、フィードやパスが何回かズレた事も気になりましたが、セービングに関しては凄く安定していたと思います。真正面のシュートが多かったですけど、それは味方のDFがどうシュートコースを切ろうとしているかを見ながら正しいポジションをとっているから出来る事で、決して簡単な事ではないです。良い経験になったと思うので、これからも厳しい競争をしていくでしょうが引き続き自分を磨いていって欲しいです。
ボランチに入った成岡は攻撃時はボールを持った時は勿論、ボールを持たない時の動き出しとかも良かったです。蓮川がドリブルでペナ近くまで出ていったのはスペースに入って山原からパスを引き出した成岡のダイレでのパスを受けてのものですから。攻撃時のセンスの高さは改めて見せてもらえたので、やはり課題は守備でしょうね。身体が小さい分どうしても当たりが弱いので。何とかこの課題を克服して欲しいです。
一方の郡司は悔しい思いをしたでしょうね。前半のチーム全体の出来の悪さの割を食ったところはあるんですけど、相手を背にした時のプレーはまだまだでしたし、ウラへボールを呼び込む動きも少なかったですね。ただ1度だけ前を向いてドリブルを仕掛けてアタッキングサードへボールを持ち出したプレーは見事だったので、こういうシチュエーションを作るにはどうしたらいいかを考えていって欲しいです。
途中から入った川谷も持ち味を見せる事が出来ませんでした。まあ熊本が同点に追い付こうと攻めかかってくる時間帯に投入されたのでどうしても守備に追われてしまって、ボールを持って得意のドリブルを見せる場面が殆どありませんでした。この悔しさをバネに来季頑張って欲しいです。それにわずかでも出場できた分川谷の方がまだマシで、加藤は出場の機会を得られませんでしたからね。彼が一番悔しいでしょうけど、腐らず頑張って欲しいです。
7.まとめ
繰り返しにはなりますが「勝ったからいいようなものの」と思ってしまう試合ではあります。が、勝てなくてどこか微妙な気持ちでセレモニーを迎えるよりははるかにマシです。チームとしての活動は終了して、ここ何日かはスポンサー企業への挨拶周りやサッカースクールでの臨時コーチとかをしているみたいですが、そうした活動が終わったらゆっくり休んで来季に備えて欲しいです。
本ブログでの今シーズンの試合毎のレビューもこれで終了です。これからはユースやジュニアユースの活動に目を向けたり、選手の加入・退団の噂にドキドキしたりする事になります。どちらも動きがあれば記事にするつもりですが、今シーズンの振り返り的な事も書きたいなと思っています。ただいつ書くかは決めてないので(汗、あまり期待しないで待っていて下さいw。
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コメント
2024シーズン、ブログ更新ありがとうございました。
YANAさんのブログは、サッカーは好きだけど、プレーや戦術の背景までは理解できない自分のような存在にはとても勉強になる素晴らしい記事ばかりで、本当に楽しく読ませていただいております。
来シーズンも更新楽しみにしております!
投稿: レイ | 2024年11月15日 (金) 09時20分
レイさん、コメントありがとうございます。
またお褒めの言葉を頂き光栄ですし、励みになります。
これからも勉強しつつ頑張って書きますので、引き続きよろしくお願い致します。
投稿: YANA | 2024年11月23日 (土) 23時18分