辛勝(4/13 いわき戦)
1.エスパルスのスタメン
SUB:沖、蓮川、北爪、松崎、西澤、西原、ドウグラス タンキ
怪我明けの乾、北川がスタメンに復帰。右SBは前節途中から出て良い動きをした北爪が起用されました。サブではドウグラス タンキが入りましたが、彼を生で観た事はなかったので「終盤使って欲しいな」と密かに思っていました。
2.いわきの戦い方
「スポーツを通じて社会を豊かにする」との理念と「日本のフィジカルスタンダードを変える」という明確なビジョンを掲げて2015年末に設立され、あっという間に地域リーグ、JFL、J3を駆け上がって昨季J2に初挑戦したいわきFC。鍛えられたフィジカルと走力を武器に前からプレスを仕掛けて奪ったボールを早くゴール前に進めてゴールを奪うというスタイルでJ2を戦い抜き、途中5連敗を喫するなど厳しい時期もありましたが、最終的に18位でJ2残留を果たしました。オフでは家泉、宮本、有田といった主力を引き抜かれたものの、西川、大迫、大森といったJ1クラブの若手を獲得。システムは昨季4バックを使っていたのを3-4-2-1に変更。非保持時にマンツーマン気味に相手を捕まえつつ前から積極的にプレスをかけてボールを奪ってカウンターを仕掛けるスタイルは変わらないものの、これに加えて保持時に後ろからしっかりボールを繋いで攻める形も取り入れていました。こうして戦い方に幅を広げた成果が出たのか今季はここまで3勝4分2敗。しかも岡山、甲府、横浜FCといった上位陣を相手にいずれもドローに持ち込んでおり、昨季のような簡単な試合にはならないだろうと思っていました。
3.狙い通りの2得点
いわきは非保持時でボールがエスパ陣内の時は3バックの真ん中の照山が北川を、左右のCBがサイドハーフのブラガ、カルリーニョスをマークし、両WBがこちらのSBをマークするという形をとってきました。そこはエスパも織り込み済だし、いきなり4分に宮本がセンターライン付近でボールを奪われてカウンターを食らいそうになった事もあって序盤は後ろから長いボールを使う事がいつもより多かったのですが、7分にそれが効果を発揮します。山原からのロングボールに対し左へ流れた北川が最初のトラップでマークに来た照山を置き去りにしポケットに侵入し、タイミングを見てクロスを送るとファーサイドでブラガがこれを押し込んで、エスパが先制しました。これは北川のトラップが秀逸の一語ですし、ブラガも左WBの大迫が付いてきているのに気付いてニアに走り込むフリをしてボールが入ってきたところで走るコースをファーに変えて大迫を出し抜いてます。どちらも秋葉監督の「相手との一対一で負けない。その上で技術やアイディアで上回る」という指示を見事に表現したもので、それが出来たからこその得点でした。
これで勢いに乗ったエスパはいわきを押し込み、9分に早くも2点目を奪います。山原からブラガへのサイドチェンジは一旦カットされるのですがすぐに宮本が寄せてカットし、そのこぼれ球を最終的に宮本がおさめてウラへ抜け出そうとした北川へループ気味のパス。これを受けた北川がチェックに来た照山を切り返しでかわしてフリーの乾へパス。乾がこれを沈めて(ちょっと危なかったですが)2点目となりました。これもトランジションでいわきを上回って五分のボールを回収した上で、宮本のダイレでのパス、北川の切り返しという技術、アイディアで奪った狙い通りのゴールでした。この得点の後もエスパはいわきに対して優位に試合を進めますが、15分頃からいわきも反撃に転じるようになりました。
4.いわきに勇気を与えてしまった1失点
いわきのボール保持時は、ダブルボランチの1人の大西と3バックでビルドアップを開始させ、もう1人の山口は前に上がって3-1-3-3とも3-1-5-1ともとれる前に人数をかけた布陣を敷き、ウラ狙いのボールを入れるか2シャドウの谷村と西川が後ろに落ちてボールを引き取り前にボールを運ぶ形などをとってきました。これに対してエスパは相手3バックに対し北川が照山を、カルリーニョスが五十嵐を、ブラガが大森をそれぞれ見ていたのですが、開始早々にタテパスを通されるなどビルドアップを遮断し切れずにいました。その要因と思われるのが2シャドウの左にいた谷村のポジショニングで、こちらの北爪と高橋の間のギャップのところとかハーフスペースレーンのあたりに立ってきたのです。こうなると特に北爪にとっては谷村は気になると思うのですが、一方で彼は対面となる左WBの大迫を見なくてはならないわけで、結果としてどちらにもつく事が出来ず、特に精度の高いキックを持つ大迫に何度もフリーでアーリークロスを入れさせてしまいました。
それが22分の1失点目に繋がります。大迫からバイタルエリアに入り込んだフリーの谷村にアーリークロスが出て、それを有馬が宮本のチェックを凌ぎながら西川に落とし、西川が見事なシュートを決めて1点を返したわけです。大迫、有馬、西川の良さを出されてエスパとしてはしてやられたわけですが、この失点はミスの要素も大きいです。まず直前にいわきの攻撃を凌いだエスパがビルドアップを開始し、権田から北川にロングフィードが出るのですが、ボールがズレてしまって照山があっさりカットし、そのボールが大迫の元に渡ってしまいます。権田が蹴った時点で前の4人に加えて中村も前に行ってしまってエスパの陣形が完全に間延びしてしまっているんです。それをあっさりカットされた事で前に行った5人が置き去りにされて最終ライン4人と宮本がいわきの攻撃に晒されてしまったわけです。これは権田のらしくないミス(技術と判断両方)と言わざるを得ません。尤も本人も自覚しているからハーフタイムで確認していたのでしょう。また権田1人のせいにするつもりもないです。谷村にボールが渡った時チェックに行ったのは宮本1人で後ろの住吉、高橋はただ立っていただけでした。あそこはどちらか1人が宮本の加勢に行くべきで、そうすれば失点する事はなかったんじゃないかと思います。
この得点で自信を持ったいわきは直後の24分にカウンターから西川がフリーでシュートを撃つなど更に攻勢をかけてきました。エスパも何とか落ち着かせようとしてボールを回収したら意識してボールを持つ時間を長くしてきましたが、ひとたびいわきがボールを持てばどんどん前に上がってきてそこへフリーの大迫からクロスが出てくるのでなかなかペースを取り戻せません。更に39分にカルリーニョスに代わって松崎が右サイドハーフに入りブラガが左に回ったのですが、この交代が更に守備のバランスを崩した感じで、いわきがボールを下げたところを見て前プレをかけるのですがそれを簡単に外されて最終的にいわきの左からの攻撃につなげられるという場面が2度ほどありました。どうにか1点リードで前半を折り返したものの状況は良くなかったですね。
5.粘って奪った3得点目
エスパはハーフタイムでいくつか修正を施して後半に臨みました。1つ目は、これはプレーを見た上での想像ですが、前プレをかけるタイミングとかけ方について。必要な時以外はむやみに追わずにけん制だけに留めるようにしたと思います。前半の終わりごろの前プレをかけては剥がされた事への反省からそのように修正したと思うのですが、これにより前半ほどはいわきに危険なシーンを作られないようになりました。2つめは攻撃時にウラへのボールを増やす事。秋葉監督自身が仰ってましたね。これにより何とか五分五分の展開に戻したのですが逆に言うとそれだけで、このまま1点差で終盤を迎えるのはきついと思っていたところ、68分に3得点目が生まれます。自陣でのいわきの攻撃を何とか凌いで、逆に乾がボールを持ち出して左サイドのブラガへパス。これを受けたブラガは追い越してきた山原へスルーパス。最初はゴールラインを割るかと見られたボールの勢いが落ちてきたのを見た山原が、DFの五十嵐より先回りしてゴールライン際でボールを奪い北川へパス。これを北川が落ち着いてボールを浮かしてゴールに入れて、待望の3得点目となりました。
北川のゴール前での落ち着きぶりも素晴らしいのですが、何といっても山原の頑張りが生んだゴールであり、0.5~0.8得点くらいあげてもいいんじゃないかと思います。あとは相手のイヤがる事をするという指示通りのプレーをした事も大きかったですね。攻め込んでいたのを裏返されてのカウンターはいわきにとっては当然イヤですし、ブラガのスルーパスも自分達の背後をとられるイヤなもので、それがミスを生みましたからね。
6.防戦一方の終盤
これで再び2点差。更に3得点目の直後に北川、乾に代えて西原、西澤というフレッシュな選手が前に入った事で、エスパは逆にいわきを押し込むようになり、74分の西原、78分のCKからの高橋と惜しいシーンを作ります。ただいわきも負けじとフレッシュな選手を入れて巻き返しを図り、80分にCKからの谷村のゴールで再び1点差に詰め寄ります。このシーン、確かに途中から入った山下のボールは精度が高かったですし、それをボレーで合わせた谷村も見事なのですが、それにしてもお粗末としか言いようがないです。ゾーンで守っているとはいえあれだけフリーにしてたらそりゃやられますよ。セットプレーの守りはここ数試合ずっと危ないシーンを作られ続けているので、大きな課題ですね。
エスパは吉田とドウグラス タンキを投入する準備をしていたのですが、1点差とされた事で方針を変更し、87分に吉田と蓮川を入れて5バックにしてきました。しかしこれにより前の方でボールを追いかけまわしたりカウンターの起点となれそうな選手がいなくなって殆ど5-5-0でひたすら耐え忍ぶ形となってしまい、ATに入ってからは何度もセットプレーを与えてははね返すばかりとなってしまいましたが、何とか耐え抜いたエスパルスが3-2で勝利しました。
まあ最後は非常に不格好な形となったので、終盤の選手交代には疑問が残ります。ボールを回収した時の前への預け所としてドウグラス タンキは入れておくべきなように思いましたし、何よりもっと早く蓮川を入れてシステム上のミスマッチを無くすべきだったと思います。ただ後者に関しては蓮川のコンディションが万全でなかった可能性があるので、責めるのは酷かもと思っています。いずれにしろモヤモヤする終わり方でしたね。
7.まとめ
この試合はいつも以上に時間帯によって試合の流れがガラッと変わる感じだったので、大きく4つに区切ってまとめてみました。そのせいもあってかいつも以上に長文になってしまったのですが、そこはご容赦下さい。書きたい事がいっぱい出てくる試合だったので(汗。
こうして振り返って見ると、いわきが1シーズンJ2を戦った経験を活かして更に強いチームになった事とエスパルスがまだまだ拙いところが多い事の2つが重なって生じた激戦だったのがわかると思いますし、特に後者の方に目がいってしまって「勝ってはいるけどこれで大丈夫なのか?」という疑問が大きくなってしまった方も多いと思います。ただそれは選手や監督・コーチは百も承知だと思いますし、「勝ちながら修正」していけばいいと考えます。
ただ、下記の2つの課題については早急な修正が必要だと思ってます。
①セットプレー時の守備
②3バックのチーム相手にどう守るか
①は前述した通りここのところずっと続いていて甲府戦でもやられかけてます。②に関しては、ちょうど来週対戦予定の3位岡山がいわきと同じ3-4-2-1のシステムで戦っているので、いわき戦のように「どっちを見たらいいのかわからない」状態を作らせたらやられます。その前に今週末はホームに仙台を迎えますし、課題を放置したままではどこかでやられるぞ、という事は強く意識していて欲しいなと思います。これも当然わかっている事だと思いますけどね。
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コメント
3バック相手のチームにどう戦うかは課題ですね
いわきは2点取られた事により前からかなりプレスを強めにきて、清水側からするとビルドアップにかなり苦労してましたし。実際3バックであれやられると清水側は人足りなくなるんですよね。
足元ではなく裏へのパスから相手のDFラインを下げるようなやり方も出来ないのかやらないのか。
ちょっと自分達の戦い方に固執すぎた印象を持ちました。
投稿: はすき | 2024年4月18日 (木) 21時22分